トップ

お知らせ

お知らせ

2017.08.17

未分類(刺繍職人日記)

【豪奢な花の打敷】完成

こんにちは。皆さま如何お過ごしでしょうか?
少しの間お盆休みを頂き、今週16日よりお仕事を再開致しました。

お休みを利用して、めいめいがあちこちへ出かけて帰ってきたのが、
お土産のおやつが積み上がる様子でよくわかります。

ミニミニ全国菓子博覧会in和光舎が開催できそうな感じで毎日わくわくです◎

 

さて、そのおやつの東京担当となったわたくしですが、旅の目的はこちら。



日本画を専門に取り扱いされている、東京都は渋谷区にあります山種美術館へお邪魔して参りました。
没後50年記念、川端龍子ー超ド級の日本画ー…パンフレットやチケットのメインビジュアルとなっている、【草の実】という作品に心惹かれてのことです。

一見豪華な画面ですが、描かれているのはススキや女郎花など日常生活においてかなりよく目にする秋の草花。画材は金泥を主体に、焼金、青金、プラチナなど。高さ177.5×幅386.3 六曲一双の屏風。

大きな画材にいっぱいの草花は目の前にすると、見る角度によって金泥の光り方に激しく明暗を感じ、迫ってくるような、かと思えばどこまでも続いていくような、不思議な感覚がありました。

さわさわと優しい風が乾いた音をたてるのが、今にも聴こえてきそうです。

この、角度によって見え方が変わるというのはヒカリモノの特徴で、私たちが普段手修復や載せ替えを請け負っている日本刺繍にも通じます。

そういえば4月のことですが弊社三条工房内テラノミライのホームページに、これがよくわかる面白いことがあったと書いてありましたので、お時間ありましたらこちらも是非ご高覧頂けますと幸いです。
こちら→http://teranomirai.jp/news/?cat=2

 

他にも屏風をはじめ、大型の作品が多く、ゴールデンウィークに観に行ったミュシャに続き、大きな、体感する絵画に何やらご縁があるのだなあと感じました。

江戸末期の浮世絵師、歌川国芳は猫好きで有名で且つ猫を描くと生き生きしたものですが、こちら川端龍子は犬好きだったとのこと。

高さ172.0×幅171.6の二曲一双の、獅子と牡丹を描いた作品の、蝶にたわむれる獅子の表情がえもいえず一生懸命でかわいらしく、飼っている方ならではの説得力あるポージングに(絵画的には構図といいますが、あえて。)愛しくなりました。



最近の美術展では、一部作品撮影可というのが散見されます。もちろんフラッシュなどは禁止ですが。

こちら六曲一双の屏風、八つ橋という作品ですが、これも高さ159.2×幅353.2の見事さ。
尾形光琳の有名な燕子花図屏風、八橋図屏風を強く意識しているのがわかりますね。
(オマージュといっていいのでしょうか。)

伊勢物語第九段、東下りに取材した作品とのこと。
琳派が好んで繰り返し描き継がれてきた題材のようです。
他にも金閣炎上、爆弾散華などタイトルからしてインパクトある作品ばかりで、
時間を忘れて見入ってしまいました。

戦前戦後にも筆を持ち続けた作家ですが、彼が生きた頃の時代性を写した、どこかジャーナリズムを感じる、視点や思考が一風変わったものがよくわかる、良い企画展でした。

川端龍子は没後50年とのこと、そういえば今年は坂本龍馬も没後150年の特別展がありましたね。
そちらは6月頃だったと思いますが、こうして大昔の人々の記録が、様々な形で保存され、
一般に公開される豊かさに感謝の気持ちでいっぱいになります。

??????

さて、表題の件に移ります。
7月13日の私の前回記事【豪奢な花の打敷】こちら→http://wakohsha.com/diary/?p=4555
お直しが完成しておりますので、ご報告いたします。

全体

部分1部分2

比較1比較2

比較3比較4

 

平糸で刺してある藤や桜の繊細さを損なわぬよう、
かつ華やかさは増すように細い金糸で周りを綴じました。
古い布の傷みや縮みによる歪みなども部分部分で細かく修正しております。

平糸の刺繍は特に、糸自体の経年劣化によって触れるだけで粉のように散っていってしまうものがありますが、こちらはまだ暫くは保ちそうです。

また、ご寺院様の御意向はなるべくそのままの姿で残したいとのことで、
桜のにおい部分や葉脈の表現は流石に新しい糸で刺し直さざるをえませんでしたが、
他は極力元のまま載せ替えを致しました。

こぼれ話ですが、こちら金糸を綴じつけていた糸色は赤なのですが、
あちこちにオレンジ色の部分があり、裏の縫い跡を見ると、
以前に修理した際にはあえて違う色の糸を使ったようです。

今回も殆ど全体に細かく手をいれており、金糸部分を綴じつけている赤糸を新しくすることにより、傷みやすく外れやすい金糸の補強をしています。

『また長く使っていただけますように。』その一念で直しています◎

とはいえ風化して消失寸前となってしまっているような部分があった時は、
見た目には大丈夫そうでも、触るとほろほろしてしまう紙一重に辛うじて保っている状態も実は多いので、そういった場合は図案を写し、新しい糸で刺すことをご提案しています。

今後また何十年と経った後に部分を新しくして、さらにそのまた何十年後かに違う部分を新しくするようなことが、いつかあるのだろうかと考えると、不思議な感覚が致します。

直しを繰り返し、物を大事に使い、後世へ伝え遺していく
その一端を担えること、任せていただけること、本当にありがたい限りです。

是非今後とも、どのような事でもご相談ください。
全力を尽くしてお応えします。

一覧に戻る

和光舎本社

京都刺繍修復工房 三条工房