2018.05.24
未分類(刺繍職人日記)
【波に飛竜の打敷】
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
暑くなったと思ったら肌寒かったりする微妙なお天気が続きますね。
じわじわと迫りくる夏の気配に今年も猛暑なのだろうかと怯えつつ、
涼しい日には工房の窓を開けて過ごしております。
窓を開けると少しばかり風が入ってくるのが気持ちいいですね。
こんな日がもっと続けばいいのにと思いつつ……。
さて、新しい打敷が仕上がりましたのでご報告です。
タイトルにあります通り、波に飛竜・袖に木瓜紋の打敷です。
今日は比較となるよう(?)人がちょびっと写っているお写真をご覧ください。
刺繍の大きさがおわかりいただけますでしょうか。
一頭の飛龍の横幅はおよそ50センチ!絹糸も金糸もみっちりたっぷり使われています。


水掻き状のヒレ(翼?)部分の絹糸の傷みが激しく、
擦り切れてなくなっていた部分も多くありましたが、修復を行うとこの通り。
ガラスの目玉も二頭四つのうち一つは割れてしまっておりましたが、
新しいガラスの目玉を作りました。
瞳も全て描き直し、もともとは黒丸だけでしたが、金箔で輪っかを入れています。
これによって眼力がアップして迫力が出ますし、より活き活きとした表情となります。

とても大事に使われてきた打敷で、一度、弊社以外での載せ替え修理をされていたものでした。
アップリケ状態に加工し、接着剤を多用しての載せ替え修理でしたので、
職人が二度目の載せ替えは大変苦労したとぽつり呟いておりました。
記事を担当するわたくしも、ちょっこりお手伝いして刺したとき、
裏側で接着剤が固まっている部分に当たって、針がいともたやすく折れてしまい吃驚しました。
弊社で行う載せ替えでは刺繍そのものへのダメージとなるような接着剤の類は極力使用せず、
ひと針ひと針丁寧に刺し直して載せ替えと修復を行っております。
傷みが激しく、今後十年はもたないだろうと思われるような部分に関しましては
新しい糸で刺し直すご提案も積極的に行っております。
これはひとえに、今後何十年とまた使っていただくにあたり、
可能な限りきれいな状態が続くようにと考えているからです。

余談ではありますが、テセウスの船のパラドックスというものをご存じでしょうか?
プルタルコスというギリシア人著述家の方が投げかける疑問で、
「(船を構成する)全部の部品が置き換えられた時、
その船が(最初に造られた時と)同じものといえるのか」という考えです。
様々な答えがあるとは思いますが、わたくしは一人の職人として弊社でお受けする
打敷の載せ替えや修復を行うにあたって、目の前にある刺繍の打敷が、
あえてこの「テセウスの船」のようになればいいと考えています。
何十年かごとに載せ替えや修復を繰り返したとして、百年後二百年後、
一番最初に作られた時の糸の一本すら残っていなくても、それが最初と同じものとは言えなくても、これからも大事に引き継がれてゆくこと、後世に向けて残されてきたこと、
残そうとして載せ替えや修復に出してくださる方がおられた、
ということを大事にしたいと思うからです。
今後ともどうぞお引き立てくださいますようお願い申し上げます。
暑くなったと思ったら肌寒かったりする微妙なお天気が続きますね。
じわじわと迫りくる夏の気配に今年も猛暑なのだろうかと怯えつつ、
涼しい日には工房の窓を開けて過ごしております。
窓を開けると少しばかり風が入ってくるのが気持ちいいですね。
こんな日がもっと続けばいいのにと思いつつ……。
さて、新しい打敷が仕上がりましたのでご報告です。
タイトルにあります通り、波に飛竜・袖に木瓜紋の打敷です。
今日は比較となるよう(?)人がちょびっと写っているお写真をご覧ください。
刺繍の大きさがおわかりいただけますでしょうか。
一頭の飛龍の横幅はおよそ50センチ!絹糸も金糸もみっちりたっぷり使われています。


水掻き状のヒレ(翼?)部分の絹糸の傷みが激しく、
擦り切れてなくなっていた部分も多くありましたが、修復を行うとこの通り。
ガラスの目玉も二頭四つのうち一つは割れてしまっておりましたが、
新しいガラスの目玉を作りました。
瞳も全て描き直し、もともとは黒丸だけでしたが、金箔で輪っかを入れています。
これによって眼力がアップして迫力が出ますし、より活き活きとした表情となります。

とても大事に使われてきた打敷で、一度、弊社以外での載せ替え修理をされていたものでした。
アップリケ状態に加工し、接着剤を多用しての載せ替え修理でしたので、
職人が二度目の載せ替えは大変苦労したとぽつり呟いておりました。
記事を担当するわたくしも、ちょっこりお手伝いして刺したとき、
裏側で接着剤が固まっている部分に当たって、針がいともたやすく折れてしまい吃驚しました。
弊社で行う載せ替えでは刺繍そのものへのダメージとなるような接着剤の類は極力使用せず、
ひと針ひと針丁寧に刺し直して載せ替えと修復を行っております。
傷みが激しく、今後十年はもたないだろうと思われるような部分に関しましては
新しい糸で刺し直すご提案も積極的に行っております。
これはひとえに、今後何十年とまた使っていただくにあたり、
可能な限りきれいな状態が続くようにと考えているからです。

余談ではありますが、テセウスの船のパラドックスというものをご存じでしょうか?
プルタルコスというギリシア人著述家の方が投げかける疑問で、
「(船を構成する)全部の部品が置き換えられた時、
その船が(最初に造られた時と)同じものといえるのか」という考えです。
様々な答えがあるとは思いますが、わたくしは一人の職人として弊社でお受けする
打敷の載せ替えや修復を行うにあたって、目の前にある刺繍の打敷が、
あえてこの「テセウスの船」のようになればいいと考えています。
何十年かごとに載せ替えや修復を繰り返したとして、百年後二百年後、
一番最初に作られた時の糸の一本すら残っていなくても、それが最初と同じものとは言えなくても、これからも大事に引き継がれてゆくこと、後世に向けて残されてきたこと、
残そうとして載せ替えや修復に出してくださる方がおられた、
ということを大事にしたいと思うからです。
今後ともどうぞお引き立てくださいますようお願い申し上げます。