2017.05.18
未分類(刺繍職人日記)
【蓮に極楽鳥の大きな打敷!】
たっぷりと惜しみなく金糸を使用し丁寧に刺繍された極楽鳥が大変見事な打敷です。
向かって右側の極楽鳥、翼の先から尾羽の先までがなんと115センチもあるんです!
工房では四幅半と呼ばれる大きさで、二等辺三角形の一番長い辺がゆうに3メートル近くあります。
図柄が全て写りきらないのが残念でなりませんが、素晴らしい飛翔感です。
また、一羽ずつがこんなにも大きな刺繍なのに、脚が無いことにもご注目下さい。
蓮の花の凛とした壮麗さにも惹きつけられる、とっても立派な打敷です。
余談ですが、先日わたくしは東京国立博物館で6月11日まで開催中の【大英自然史博物館展】を訪れ、
幾つか展示された極楽鳥の剥製を拝見することが出来ました。
南国に生きる鳥たちのもつ羽根色の美しさは、命絶え剥製にされてなおまばゆいものでした。
この極楽鳥という名は、日本では別名とされ、正式なものではありません。
名前についての一説に、西洋で、一生枝に留まらず飛び続けているという考えから、
paradisaeidaeと名付けられた鳥が、日本では枝に留まらず風を食べて生きると考えられ
風鳥(ふうちょう)と名付けられたというものがあります。
実際のところはわかりませんが、情緒的でロマンがあるお話だなと思ったのでこの機会にシェアしてみました。
そのほかには絶滅したオオナマケモノの骨格の化石、ハチドリケースなどが面白く、
このオオナマケモノや、目玉である始祖鳥やドードーなど幾つかの展示品には
学術的観点から再現されたCG映像などもあり、
何時ぞやに生きていた頃の姿をよりリアルに感じることが出来る素晴らしい企画展でした。
こちらは一部ですが、金糸が損失している部分を補い修復し、載せ替えをしたビフォーアフター。
ご存知の通り、金という金属は半永久的に錆びたりくすんだりすることがありません。
金糸を作った金箔に金以外の金属がどのくらい混ぜられたかで、青金、赤金と呼ばれるように
同じ金は金でも色合いに幅が出ます。
混ぜ込まれたその他金属の比率が高いほど、経年により変色しやすくなるようです。
工房では大事にお預かりした打敷の刺繍を、
味のある色味や風合いを出来うる限り活かしてそのままを載せ替えるようにつとめておりますが、
長い時間大事に使われることにより古めかしく変化した金糸は、それだけに魅力的に感じられます。
この独特な古めかしさを持つ金糸は、現代の技術をもってしても作れるものではないらしく、
時代を超え、長い時間が経た分だけ、目に見えない重みが増すのだなあと感じざるを得ません。
当工房には、寺院さまから「何かに使えれば」と頂戴した打敷がいくつかあり、
図案の構図や配色の参考にしたり、
縫いの技法技術のお手本にじっくりと観察したりして役立てるほか、
とりわけこういった金糸損失部分の修復の為には、
色や太さがなるべく近いものから傷めないよう丁寧に巻き取った金糸を、
再度縫い付けて大事に使用させて頂いており、
その都度たくさんの寺院さまに支えて頂いているのだなあと感謝の気持ちでいっぱいになります。